About "AT通信"
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「軍人ハンター」---著[ルジェリア]---画[ちるね]---
第一項(完)
クローディア水源。
北と南の領地の奪い合いの戦地だ
私は北の僻地でクリスタルを掘っていた。
自分の姿を再び確認する。
黒地に映える白と土色のチュニック。
私が5ヶ月の歳月をも費やし、ひたすらハーピーを狩り続け
やっとの思いで揃ったビショップセットだ。
― 長かったわ・・・この5ヶ月・・・
ぐっと一人感傷に浸った。
太陽に映える黒髪をさらりとかきあげ、桃色の宝石を象った杖を振り上げ、
ソーサラーの上級魔法を使用するときに必須のスキル、「詠唱」を唱えた。
ぱっからぱっから。
背後から駆けて来る音のほうを振り返ると、騎士のような召喚獣が止まっていた。
「掘りさん一人でっか。大変ですなぁ。あ、ビショップさん、クリありやすか?」
「ありますよー。ナイトさんも、輸送お疲れさま」
輸送ナイトにクリスタルを渡し、ぱっからぱっからと去っていくのを見送ると、
一人の時間がのんびりとし楽しむ。
くあぁ・・・と大きなあくびを一つ漏らし、相変わらず輝きを失わず眩しいほど光り続けるクリスタルの破片をぼーっと見つめる。
― それにしても、裏方というものも、つまらないわね
ごう・・・ん
クリスタルの声が響き、きらりと一欠けらのクリスタルが地面に零れ落ちる。
それを片手でつまみあげながら、やや離れたところから見える敵のエクリプスを眺めた。
― あなたも暇そうね
ふう、と息を吐き辺りに敵影が無いことを確認しなおすと、杖を握り締めた。
「エクリプス、破壊します!」
地面を強く蹴り上げ、高く飛び上がる。
杖の先から魔力の塊を放出し、エクリプスにぶつける。
そんな作業を10回ほど繰り返していた頃、不意に後ろから声が降ってくる。
「なぁ、お嬢ちゃん」
「ひっ!」
気配もなく、突然のことに驚いて手元が狂い、杖を落としてしまった。
ばっと後ろを振り向くが、そこには誰も居ない
「あ、悪いナ。ハイド解くわ」
ぱっと何事もなかったかのように一人の青年が現れる。
口元を覆っている黒いマスクの上に見ているだけで目がまわってしまいそうな眼鏡をかけていた。
服はだぼっとしていてつぎはぎ
― 綺麗な金髪・・・
はっ、と青年の腕にゲブランド帝国の紋章が刻まれているのを見つけ、じりじりと退歩する。
「・・・あなた、ゲブランド軍よね?」
「そんな感じッスねー。まあでも今は、戦争とか関係ナシに、「じゅーよー」な話があるんや」
「・・・何ですか?」
「お前の着ている服を全部・・・ぐぼあああっ」
「ななななななななな、初対面のレディーになんてことを真顔で言おうとしてんのよ!!!」
ゲブランドの青年の頬に思いっきり当てられた握り拳。
それが女性からのものだとしても、本気で当てられるとかなり痛い。
「ち、ちがウ・・・ビショップ一式が欲しいのだ!」
「何よ、あげないわよ!ていうか紛らわしい言い方はやめて頂戴!」
腕をくんで地面に倒れている青年を見下ろす。
眼鏡越しに彼が私を上目遣いで見据える。
「この装備、私も苦労して手に入れたんです。
どうしても欲しいのなら貴方も狩ればいいじゃない・・・」
青年はうつむいたあと、浮かない顔色をして上を見上げる。
ふう。と息を吐くと青年は喋り始めた。
「それがナ、できんのや」
「・・・は?」
「お嬢さん、聞いた事ないでっか?
軍人から装備を剥ぎ取り、それを収獲にしている・・・」
「ああ、軍人ハンターのことね」
私の知り合いも何人か武器と装備をとられたと言っていた。
国家伝言板にも時々話題になる「軍人ハンター」
軍人から武器、装備を奪い、それを収獲にして生きている人達。
何故軍人から一般人が武器、装備を奪うのか分かっておらず、
装備を奪われた人は全て遺体で発見されている。
「そう。それが・・・わたくし」
「ふーん」
ばしゅばしゅとエクリプスに魔法攻撃が当たる音がいつのまにか再開されていた。
「真面目に・・・聞いてまス?」
「嘘をつくならもっとマシな嘘をついたほうがいいと思いますが」
「まあ、そんなこと言っても信じてもらえませんよネ」
ばしゅばしゅと魔法音が絶え間なく青年の言葉を遮る。
― 変な人ですね。やはり、暖かくなってきたことと関係あるのかしら・・・
近くに立っている人物のこともすっかり目に入らないらしく、ぽんやりとエクリプスの破壊活動を続ける彼女。
「そろそろエクリプスがおれ・・・・・・え・・・?」
カランと音を立てて地面に落ちた杖。
何が起こったのか状況を把握できずにいると、真上から声が聞こえた。
「ビショップ一式、いただきまス」
「・・・!? なんで、なななあっ!!?人の上に乗っかるなんて無礼よ!しかも私女ですし!」
顔を真赤にしてソーサラーは講義する。
だがそれを無視して金色の髪の青年は彼女のチュニックのジッパーをさげようとしていた。
「ちょっ・・・っと!冗談にも程が・・・」
「・・・狙った獲物は、逃がさなイ」
今までの楽天的な軽い声とは違い、彼の鋭い声が私の上に重く圧し掛かった。
― まずい・・・本物の「ハンター」・・・!
この状況をどうにかして抜け出そうと彼女は杖を握り締めた。
― よし、エクリプスを折る前に詠唱唱えておいてよかった・・・!
「ヘルファ・・・んぐっ」
杖を手から遠のけされ、青年の顔が間近に迫る。
鋭い青い瞳が眼鏡の横から一瞬見えた。
殺意と憎悪を秘めた色をした、軍人と同じ濁った瞳で・・・
私を、私を・・・!
ぞくりと冷たい汗が流れる。怖い。怖い・・・怖い・・・
「わああああああああっ!!!」
どん。青年を思いっきり突き飛ばし、地面に落ちた杖も忘れて走り出す。
「無駄だよ。杖を捨てたソーサラーの力は、一般人の力にも勝らないほどちっぽけなものだって
そんなことくらい知ってるンですヨ?」
― 確かに、私達は魔力を練る力は一流だとしても、
体力は一般人と同じくらいか、それ以下だ・・・
ましてや、軍人ハンターと名のある恐ろしい人に、もう抗う手段はない。
グッと腕を握られ、首元に小型ナイフをあてられる。
― ころ・・・され・・・る・・・
ガタガタと震えるソーサラー。
「おとなしくビショップを渡してもらえれば、命だけは助けてあげようかナ」
「・・・い、きて帰って、きたひ、とは・・・いな、い・・・」
「ほほウ。お嬢さん、やっぱリ知っていたのですねェ・・・」
ふと、自分の鞄に手が触れる。
固くて、棒のような形のシルエットがうっすら浮かび上がっている。
― 杖・・・が・・・!一本残ってたこと・・・すっかり忘れていた。
そーっと気づかれないように鞄のすきまから手を入れ、杖の先端に指先を触れさせる。
「そろそロ、サヨウナラしまス?言い残したことがあれば、なんでも聞きますヨ。
だって、わたくしはとってモ優しい人ですかラ」
「ええ、一言だけいいかしら」
「どうぞ」
にやりと私の口元が笑みを浮かべる。
杖に少しでも指が触れていれば、魔力が増強され、小さな呪文くらいは唱えられる。
「フリージングウェイブ!」
「ぐッ・・・!?」
青年が吹き飛んだ瞬間、思いっきり自軍の拠点に向かって走りだした。
― よし・・・!なんとか・・・!
ビショップの装備を纏ったソーサラーに逃げられた青年は自室のベッドの上でぎゅっと拳を握り締めていた。
「あきらめんゾ・・・!ビショップ装備!・・・アイタタタ・・・」
どうやら吹き飛ばされたときに背中を強く打ってしまったようだ。
次の日から、ソーサラーのポストに何故かパンが一個送られてきた。
手紙がついていたので読んでみる。
「・・・まだ諦めてなかったのですか・・・」
はぁ。とため息をついた。
― やっかいなものに、目をつけられてしまったようです。
「ティファリス様・・・どうか・・・私を・・・お守りください」
ぐっと両手を組んで聖女様にお祈りを一つ捧げた。
― どうやら、もう少し二人の変な関係は続くらしいですね
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