About "AT通信"
- FEZ内であまり役に立たない情報を、自分達が楽しみながら発信していく「組織」、またはその「情報媒体」です。
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「War Dogs」---著[Anly]---画[ちるね]---
第四項
新兵訓練開始から、四日ほど経ったある晩のこと。
僕とフェルは、二人で野営をしていた。
場所は訓練場、ここ数日ずっと同じ訓練をしていた丘が見える、浅い空洞の中。
「…一昨日、昨日、今日とくれば、明日明後日もこりゃ、素振りかねぇ?」
フェルがぼやきながら、火にくべた干し肉をいじる。
初日が素振り千本、次が二千本、三千本、今日は四千本くらいだった気がする。
日を追うごとに、素振りの本数だけが増えていく。
先生にも何か考えがあるのだろうけど、正直というか…このままでいいのかなとも思う。
同じことばかり、というのもあるけれど、何よりみんな、嫌気がさして出て行ったし。
フェルが言うには、
"あいつらにゃ根性ってのがなかっただけの話。ほっとけ"
と、つまらなさそうに言っていたのを覚えている。
「うん…そう、かもね」
一言二言を返す。それだけのことが、今日にいたってはしんどい。
たかが素振り。されど素振り。何時間もかけて、ひたすら素振りを何千回と繰り返せば、疲れるよ。
身体はとっくに限界、気合を入れれば何とか動くけど、という所。
「このくそ寒い中、朝から晩まで素振り素振り。オベ折したのなんて初日だけ、なーに考えてんだか」
ぼやきながらも、しっかりと干し肉をかじるフェル。
僕は、震える手を火にあて、暖をとることで精一杯なのにな…。
「正気の沙汰じゃねぇってマジで。死ぬぜ? 俺はまだしも、クロム、お前もう限界だろ」
「うん…どうだろ。きついのは、きついけど…」
「メシもろくに食えてねぇし、死にそうだし、弱ぇえし、寝たまま起きなくなりそうだし」
「うん…ごめんね」
体力的にはもう限界、気合をいれても足しにならない上、寒さと疲れで眠気がすごい。
このまま寝てしまえば…楽になる、のかな。
「だーかーら。野営なんて無理なんだってばよ。いまからでも遅くねぇ、街に帰らね?」
「うん…でも、まだ、終わってないから…」
先生に言われた回数、あと千本くらいが残ったままだ。
日が暮れて、先生が帰って、でも終わらなくて、終わらせないといけなくて。
暗くなってからは冗談抜きで危ないってフェルが言うから、野営して、朝になったらすぐにやらないと。
「…ごめん、僕なんかに、付き合ってくれて…ごめん」
「いや、んなこたどうでもいいんだけどよ。律儀にも程があるぜ…回数なんざ端折ればいいんだよ」
「うん…でも、先生が、言ったから…」
言いつけは、守らないと。
それがどんなに無茶なことでも、先生の言ったことだから。
「…守ら…ないと…」
「わからねぇ…なんでそこまで、あの教官に従うかねぇ?」
フェルの呆れた声に、僕自身も同じ思いがある。
なんで、ここまで先生の言いつけを守ろうとしているのだろう。
…よく分からないけど、先生はきれいだから。それだけが、僕の理由かもしれない。
「まぁ、サリサ・ダルクったらかなりの有名人だけどよ。正直、そこまで入れ込むもんでもなくね?」
先生の名前。サリサ・ダルク。
フェルに聞いた話、元々はホルデインとかいう、王国の騎士様だったとか。
数多くの戦場に加わり、未だ傷を負ったことがないんだとか。
最前線に降り注ぐ矢の雨、魔法の嵐、荒れ狂う戦士の斧…どれも、先生には届いてないらしい。
もっとも、そんなウワサ話が全部ほんとな訳もないんだろうけど…先生は、すごいんだ。
「止まらずのサリサ…英雄っちゃ英雄だけどさ、俺らとは別モンだと思った方がいいぜ?」
「そう…かな」
「そりゃそうさ。いまでこそ、こうやって俺らに訓練してるけどよ。つっても素振りくらいしかやらせてくんねーけど…本来なら、ばりばりの主力だぜ? 俺たちに構ってる暇があったら戦争行けって話」
「うん…かも、しれないね…」
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