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「ペールライフ」---著[Anly]---画[ちるね&みかん]---
第一項
空には雲。
天には黒。
そして星月が照り付ける。
つまりは、夜。
「まったく…帝国の連中、よほどヒマと見える」
「兵が多すぎるのです。どこまで領土を広げようと、あぶれるものが出てしまいますな」
過度に多すぎるのも考え物だな、と互いに笑う。
エイケルナル大陸、ノーブソック台地。
首都アズルウッドとエイケルナルをつなぐ、橋渡し区域の一つである。
平時は主に、新兵らが肩慣らしついでの狩りを行う区域であり、半ば実戦訓練の場ともなっている本土だ。
そう、平時ならば。
<宣戦布告>
「来たか。帝国の夜戦兵め。寝込みを襲うことしかできぬ分際で、宣戦布告とは笑わせてくれる」
「しかし有効です。物量に勝る術はなし…これも、帝国一流の戦争でありましょう」
隣国、ゲブランド帝国から起こされた宣戦布告。
これより本土は戦場となる。
すでにエイケルナル東端のアンバーステップ平原は制圧され、奪還に向かう同志と占領軍とで新たな戦争が起きている。
その、戦乱に乗じた更なる侵攻。
一方で戦争を維持しつつ、もう一方で戦争を仕掛ける。
どこまでも、どこまでも。戦争に負けてもなお、戦いを起こし続ける帝国の野望は、留まる所を知らないかのようだ。
「ふん。数にモノを言わせるか。…くだらぬ。だが認めよう。帝国は強大だな」
「ええ、強大です。さすがはかのグラーハを継いだ私生児、と言った所でしょうか」
「若き皇賊帝…か。我らが老いた傭兵頭とはまるで違うらしいな」
「ええ。下からは崇拝され、上からは嫌悪されているとか。なかなかに面白い若者かと」
戦争開始まで、あと数分。
カセドリア軍の人員、二名。ゲブランド帝国兵、およそ十数名。
「ふむ。最近の傭兵は質が落ちたか?」
「誰も、好き好んで負け戦には出たくないものですから。他ならぬ、この私でさえ」
「骨なしどもめ。だが構わん。足抜けしたい者は勝手に抜けるがいいさ」
メルファリア戦争規定――いつの間にか定められていた、強制力を有すシステムの一つ。
戦争時における人数差は、実質五名まで。
しかしここに穴があった。
二 対 十 での開戦は不可。
五 対 十 での戦争は可。
五のうち、三が抜けた場合、敵対する十の数はそのまま。
つまり、二 対 十 の人数差は成立する。
そして、様子見と言えども一度参戦した限り、システムからは一人分として見なされる。
これにより、一方的な人数差を作り出すことも可能となるのだ。
一度あきらかになった敗戦の気色は、強烈な劣勢感を伴い兵を犯す。
戦では大勢が絶対である。
その大勢を作り出すのが兵の数であり、数の力は兵士個人の気力さえ支配するもの。
それほどまでに、『数』の力は絶対的だ。
「十二…十三…十五…順調に増えてますな、あちら側は」
「上等じゃないか。戦場を埋め尽くすまで増えればいいさ」
戦争規定が認める限り、すべての事態は可決される。
たとえそれが、二 対 五十 の屠殺場になったとしても。
人数差、五までというルールがそれを認めるのだ。
「二十と、七…こちらは以前として、二人のまま。…もはや、援軍は望めませんな」
当然のこと。
援軍の様子見にきた者から抜けていっては、数値としては加算されても兵としては数えられない。
対し、向こう側の兵員だけは着々と増え、勝ちの気配に沸き立たれる。
正にシステムの想定を越えた、人間の弱さ。
悪循環、敗北の輪廻。
こうして敗戦が生み出される、負の兵站。
「援軍要請は出したか?」
「いいえ、一度たりとも」
「俺もだ」
互いに笑う。バカめが、と。
「では参りますか。敗北を知りに、負け戦へと好き好んで」
「違うな。これは、敗北に抗うだけの抵抗戦であり――ただの自殺行為だ」
戦争での数は絶対だ。
いかな技をもってしても、圧倒的な数の前には容易く破れる。
ゆえに、個人単位で軍に挑むことなどただの無謀、ただの自殺であり、狂気の沙汰。
「ふム。さすが、と申しましょうか。それでこそ狂犬、それゆえに恐るべき…死にたがりの傭兵ですな。ペール殿」
<戦争開始>
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