About "AT通信"
- FEZ内であまり役に立たない情報を、自分達が楽しみながら発信していく「組織」、またはその「情報媒体」です。
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「Ring of the Kingdom」---著[Anly]---画[ちるね&みかん]---
第一項
―――黒い革鎧を身につけた、お世辞にも騎士とは呼び難い風貌の戦士が傲然と言い放った。
「あー、ようこそ我がカセドリア連合軍へ。とでも言っておくか。あとは、なんだ、かったりぃな」
名前はペールと言うらしい。なんでも、連合軍の新兵担当役だとか、新規加入兵のまとめ人だとか。
「今日で何回目だよ、クソ豆が…ああ、豆ってのは諸君らの英雄、憧れの的であるウィンビーン将軍殿のことな? あのむさ苦しい中年親父。エルフの小娘を最大限に利用されておられる、傭兵将軍のことだ。覚えておけよ?」
と、好き勝手に言う言う。罵詈雑言の類は数あれど、たいていどこかで聞いたような、嫉妬まじりのくだらない悪言だ。これならまだ、酒場の呑み助の方がよっぽど面白いことを言ってくれそうだ。
「あー、マジでかったりぃ。これよ、歩合制なんだぜ? やりゃぁやるほど儲かるとは言うけどよ、いちいち同じことを、いちいち違う野郎どもに、いちいち説明させられる俺の身になってみろよ? な?」
心底かったるそうな面持ちで、これ見よがしなため息をついて一息。
「言っておくが、俺はもうやる気はない。小銭稼ぎの割りにゃ、ウマい話ではあったけどよ。これならまだ、外で狩りでもしてたほうがよっぽどマシだ。ってことで、あれだ。解散。あとは好きなようにやってくれな?」
年季の入った黒手甲をひらつかせ、いかにもぞんざいな物言いでペール新兵担当官は言い捨てた。
「ちょ、ちょっと待ってください! なにそれ、そんなのでどうしろって言うんですか? 無責任にも程があります。せめて、採用の可否と、所属部署の割り当て、後は駐屯所の斡旋くらいはして頂かないと困ります」
ペール新兵担当官の横着に、さすがの待ったが掛けられた。
声がした方、とはいっても俺のすぐ横のヤツだったけどよ、をちらりと見る。
背丈は低く、俺の胸元くらいに頭の天辺が届いているくらい。声の聞こえからして、まだ若い女のものか。黒っぽいフードを目深に被り、同じく黒っぽいローブを纏っているので身体特徴はつかめない。
背格好と、さりげなく批難を混ぜ込んでいるあたり、頭の切れる、ソーサラー志願あたりだろうか。
「そうだな、ああ、いちいち御もっともな意見だな。うん、ほんとにな? 俺がこの数日で、何回、同じことをしてきたと思うかね。数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいだ、分かるな?」
「分かりません。それが、アナタの仕事でしょ? 報酬を受け取っているならなお更のこと。現状に不満があるなら辞めるなり、雇い主に交渉するなり、どうとでも改善できるはずです。けれど、それはアナタ自身の待遇問題であって、私たち、新規加入志願兵には関係ありません。最低限のことはやって頂きたいです」
強気だな。正論だとは思うが、言い方が直球すぎる。こいつは敵を作るタイプだろうな。
「あー? 随分クチが回るな、お嬢さん? どこの出だ? 名前と出身を言ってみろ」
「レア・メタルワンド。出身は黙秘します」
「ほぅ? レディにしては可愛らしいお名前だな。ご両親はさぞかし、愛情を注いでくれたことだろうな。今では立派な弁論家だ。これも教育と躾の賜物か。出はどこだ」
「連合軍、特にウィンビーン将軍下の傭兵部隊は、出自不問に伏すと聞きました。部隊規約に則り、出自の不問と、家庭環境、および経歴の秘匿を宣言します」
つまり、大っぴらにはできないか、したくない事情を持っているということ。
さもありなん。
六大大陸のそこかしこでは戦争が絶えず、ここ、アズルウッドの街も、ついこの間までは隣国であり強国のゲブランドから独立を果たしたばかりだ。
いまなお燻り続ける火種を抱え、どこにでも争いは起きるし、人々の間には不信と不安が蔓延している。
それは連合軍でも同じこと。ほいほいと自分の持っている情報を明かすなど、愚の骨頂どころかバカであると言えよう。身元の確かさなど、それこそカセドリア正規兵だけが持っていればいい。
「ふん、よくお勉強しているな。ああ、そうだとも。お前らの出自、経歴、目的なんぞ俺にはどうでもいい。お前らがどこの馬の骨か分からんクズどもであっても、俺には関係ない。使えるならそれでいい。もっとも、便所掃除もろくに出来んような無能だったら話は別だ。さっさと国へ帰してやる。世間ではどう言われているか知らんがな、傭兵を舐めるなよ? 言っておくが、うちは正規軍のような待遇、保障なんぞ一切ない。てめぇの食い扶持はてめぇ稼げ。寝床もだ。駐屯所? 知るか、てめぇらで探せ。所属部署? なんだそれは。てめぇは一々指図されないと身の振り方も考えられない、決められないウドの大木ですかァ?」
これが地の性格なんだろう。様になった、堂に入った物言いだ。さっきまでの戦士風な、いかにも担当官ですといった体面を捨て去ったペールの口調は荒く、粗暴ではあったが、俺は嫌いじゃない。
傭兵部隊なんて、そんなものだろう。正規軍や騎士団といった、礼節や人徳、一端の兵士らしさを求められるわけでもなく、要するに戦争で使えればそれでいいのだと。もっとも、敵を作りすぎると味方に背後を突かれる、といった戦場の事故も起こり得るが。
「…程度が知れるわね…。つまり、各種の生計は自前で建てろと。了解しました。新兵訓練や、戦争時における各部署との連携などは、どういった手順を取ればよろしいですか?」
聞こえない程度で呆れた台詞をはきつつも、聞くべき所はきっちりと聞く姿勢は大したものか。向こう見ずな性格なのか、自己本位なのか、単にバカなのか。頭の回転は早そうだし、物知りそうな所は買うが、処世術の類はそうでもないらしい。是非ともお近づきにはならないよう、細心の注意でいよう。
「いちいち五月蝿い小娘だな…お前は1から10まで聞かないと分からないほど素人なのか? ああ、失礼。ドがつくほどの新参だったか。おのぼりさんにゃ、いきなり自由行動っつっても理解できんわな。それは仕方ない、何せド新規だからな? 親切丁寧、1から10までをちゃんと教えて差し上げないと、何をしたらいいか分かりませんね。死ねよクソが。失礼、つい本音が」
「……つまり、各種の訓練や、戦争時の手順、および参戦手続きも任意、ということでよろしいですか?」
そうだったのか。俺はてっきりペールが好き勝手に罵っていただけの気がしたが、雑言の中にはしっかりとした説明が含まれていたらしい。まったく気づかなかったぜ。
「ふん。好きにやれ。5人揃えりゃ戦争は起こせる。どんな戦争でもな。いつでも起こせる。たとえそれが不利極まるタイミングのクソ戦争であってもな? 稀にあるのは、援軍の当てがないまま宣戦布告をかまし、至極当然のように人数差を喰らってレイプされる形のレア・ケースだ。どこぞのお嬢様のようにならないようにしろよ?」
誰がうまいことを言えと。
さすが新兵担当官と言った所か。人の名前を逆手にとって皮肉をかまし、さらりと侮辱している所なんか痺れるぜ。あからさまな下品さを隠そうともしないのが好感触だ。傭兵最高だな。
とはいえ、貶された本人は堪ったものじゃ、
「了解しました。布告のタイミング、および形成と人員の配分を考えて行えと。攻めるならば優位を、守るならば戦線を維持させるよう念頭においておきます。ありがとうございました」
そうでもなかったらしい。冷静なのか、あるいは怒りを抑えているのか分からないが、口調だけを聞いていると静かなものだ。
これにはさしものペールも興ざめを起こしたのか、鼻を一つ鳴らしただけでそれ以上の罵倒はしなかった。
とりあえずだ。
基本、自由行動。戦争への参加などは任意で行い、適当にやれということか。そんなのでいいのかと思うが、歴戦のベテランが揃っている傭兵部隊なだけに、新兵のやることなんざ大した影響もないってことかも知れないな。
気楽ではある。俺のような適当なヤツには居心地が良さそうだが、レアとかいう女のような、きっちりと区分けされないと納得できないような、マジメなヤツにはさぞかしやり難い所だろう。適当万歳。
ちなみに『適当』ってのは、かつての支配国ゲブランドの現皇帝、成り上がりの盗賊帝ライルが好んで使っている口癖である。ゲブランドは正直好きではないが、あの適当な皇帝だけは割りと嫌いじゃない。カリスマがあると人は言うが、俺にゃよく分からない。単に、同類っぽい感じがするだけのこと。
「ふん、ツマランな。まぁどうでもいい。どうでもいいが、ふん、……詰まらんのは良くないな。どうしたもんか……ふむ。そうだな、おいお前。名前は?」
と、急に水を向けられたのは、
「俺?」
「そうだよ、お前だよ。目線と雰囲気で察しろよ。そんな鈍さじゃお前、戦争で死ぬぜ?」
ひどい言われ様である。戦争で人が死ぬなんて、あまり聞かないけどさ。自殺か事故でもない限り、リングの導きだとかいう秘蹟で戻れるし、重症でも割とあっさり治してもらえるらしいし。脳天直撃とかいった無様なやられ方をしない限り、まぁ死にはしないという話だ。
「名前、名前ですか。これといった呼ばれ方はしてないけど、アーチャーとかたまに呼ばれるくらいかな」
何を隠そう、俺には名前がない。
いわゆる戦災孤児ってやつで、物心ついた頃からその辺の森で暮らしていたしな。一応、オヤジというか、師匠というか、まぁ育ての親っぽいのが居たが、そいつも独立戦争の時に名誉の戦死をかましたわけでな。
そいつが名乗っていたのがアーチャーって通り名らしく、俺もそれを真似てアーチャーとか名乗ってみる。名前って何だろうな?
「ふん? アーチャー、アーチャーだと? ……まさかな。出身はどこだ?」
「さぁ。どこだっけ、その辺の森で暮らしてたけど。森出身?」
なんとか森って地名があった気もするが、いちいち覚えちゃいない。あの森はあの森だし、まぁ街じゃないから森、と言うしかないわな。
「ふん、森のアーチャー、守人か。気にいらねぇな。得物は弓か? 短剣か? スカウト志願だな?」
「まぁ、そんな所かと」
スカウト志願というか、単純にそういうことくらいしか覚えてこなかったからな。それ以外の格闘戦とか、魔術のイロハとか、無理だ。ウォーリアーとかソーサラーにゃなれそうもない。ろくに文字すら読めないってことは秘密にしておこう。
「ふん。おい、そこのデカブツ。そう、お前だよお前。ウド野郎」
と、俺の後ろの方を指差すペール。
視線を移して後ろを向くと、そこには巨きな男が佇んでいた。普通、この手の巨漢は居るだけで周りを圧迫し、無駄な威圧感を振りまいて仕方がないはずだが、そいつからは威容さがまるで感じ取れなかった。
ペールの言葉どおり、ウドの大木が立ってるだけの気がする。
「お、オラ、っすか。あの、えと、あ、す、すまんこってす」
いきなり低姿勢きたこれ。
「あ? なに謝ってんだよお前。バカなのか。お前らほんとバカが勢ぞろいだな。名前と出身くらいは言えるな?」
「あ、ハイ。えと、オラ、ガァズ、ってもんです。その、ネツァウで、農夫やってたもんです。家、おん出されたもんで、家の名前はないです。その、だから、ただのガァズ、です」
ネツァウってどこだっけ。
地方なのは間違いなさそうではあるが、いかんせん俺の記憶なんか当てにはならない。まぁ、このガァズって大男が農夫で田舎者ってことだけは確かみたいだが。
「ネツァウ? ああ、ネツァワルか。なんだ、獣国からのスパイかよ。救いようのないバカだなお前。何すんなり出自明かしてんだよ。しかも他国。それともあれか、実は他国に見せかけた田舎者か? まぁどうでもいいが、あんまり詰まらんこと言ってると御仲間から殺されるぞ? 注意しろ」
まったくもって同感です。正直なのか無考えなのか分からないが、農民上がりに傭兵なんて務まるのだろうか。出来れば同じ戦場ではやりたくないな。巻添えなんかごめんだぜ。
「ほんと今日はバカ勢揃いの面白い日だな。おい女、お前はどうだ?」
次に水を向けられたのは、本日最後の一人、青い服に金糸の刺繍が施された、見た目はさほど派手ではないが、どことなく気品をこぼす格好をした女の騎士。戦士と呼ぶにはちょっと洒落すぎで、ペールのような野暮ったさもなければ装備の荒さも見当たらないので、騎士ってのが妥当だろう。
「ホルデイン王国騎士団が所属、ジャンヌ・ロメと申します」
バカ二人目きたよこれ。
いや、なんか胸元に握り拳を掲げる、敬礼っぽい仕草は決まってるけどさ。ここまで堂々と他国組織からのもんですよって言える神経が分からない。周りの空気読んでないんじゃね?
「……これは、これは。かの名高きホルデイン騎士団の騎士殿でしたか。道理で、立ち居振る舞いの一々が目に付く、失礼。目を引くものだと思っておりました。それで、他国の騎士殿が我が連合傭兵団に何の御用向きでしょうかね? あまり堂々と諜報活動宣言をされても俺は困るってか、犯すぞクソアマ」
「出自不問であると伺っております。たとえ私が他国の者であっても、カセドリアの利益となるならば良しと。ホルデインが英雄ベルクシュタインの名に誓い、卑劣な裏切り、下劣な工作は致しませんので、どうぞご安心を」
「ふん、裏切り者はみんなそう言うもんだ。まぁいい。不審な動きがあれば即座に通報されると思え。我が傭兵部隊の暗部、身内粛清の部員にせいぜい気をつけることだ。そうだな? アーチャー?」
そこで俺に振られても。
「はぁ。まぁ、そうですね?」
間の抜けた返事くらいしかできないぜ。
部隊員の出自を不問に伏すということは、他国の兵であっても受けれるということに他ならず、連合軍の人員不足が如実に現れていると言えよう。自国の兵士は正規軍に回せるが、正規軍だけでは治安の維持と本土の防衛くらいしか手に負えないわけだ。
なので、基本的に進攻、攻めの戦争には傭兵が必要とされる。負け戦でも構わず、攻めの姿勢を各国に示すだけの徒労を買うのが傭兵であり、さほど勝利は望まれちゃいない。いつでも使い捨てることが可能な部署であるが故に、兵隊の質や量は二の次ってことだな。
もっとも、諜報工作を好き放題されると困るのは事実なので、たとえ傭兵であっても一応のルールはあるわけで。違反者を罰する部隊員も、まぁ居てもおかしくはないわな。
「承知。ホルデインの威信を傷つけることのないよう、己が身の振りを覚悟致します」
「ふん、つまらん。もっとこうだな、陰湿な工作員や、根っからのスパイは居ないもんか。なぁ、アーチャー。お前はどう思う? ん?」
「いや、俺に絡まれましても。それじゃまるで、俺がその手のものっぽく思われるじゃないですか。潰す気ですか?」
「ケケケ、潰れるもんなら潰れてみろよ。この程度の嫌がらせで潰れるなら、しょせんお前はその程度の小物だったってこった。とっととケツまくって森に帰ってもいいぞ? エルフの小娘も森に帰りたい帰りたいとこぼしているんだ、さぞかし森は居心地のいい御里なんだろうよ。こんな錆臭い人間の街になんざ、居たくもないだろ。帰れば?」
なんだろう。俺、そんな敵に回すようなこと言ったっけ。なんで目を付けられなきゃならないんだ。
「まぁ、森の方が落ち着くのは確かですけども。18になったんで、とりあえず傭兵稼業を継がなきゃいけないんですよ。よろしく頼みますよ」
オヤジの言付けというか、遺言というか。17か18になった頃に傭兵部隊に入れ、って言われただけで、他にこれといった理由も目的もないのが困るな。
森で気ままに狩りでもしながら暮らす方が性に合ってる気もするが、最近は魔物のせいでろくな狩りができやしない。むしろ、森の獲物を狙う魔物を狩らないといけないという、よく分からない構図が出来上がってしまった以上、魔物狩りで稼げる傭兵部隊の方が、まぁ食うには困らないわけだ。
「ふん、これだからアーチャーは。……よし、ではこうしよう」
にやりと。
ペールは獲物を前にして舌なめずりをするような、どことなく好戦的な笑みを浮かべて提案した。
「アーチャー、お前、リーダーな。そいつら3人をまとめて、『アルガンの枝』を取って来い。人数分な。期限はそうだな、1週間もあれば余裕だろう? 街の中央南あたりに静かな森っつう宿屋がある。そこの女将に話は通しておいてやるから、1週間そこで世話になれ。あとは期限内に枝とってこい枝。手段はどうでもいい。誰かから譲ってもらおうが、盗もうが、奪おうが、買おうが、狩りにいこうが、どうでもいい。手段は選ばず結果を見せろ。成功すればそうだな、ウィンビーンのくそ野郎から何かふんだくってやろう」
「イヤだといったら?」
「勝手にしろよ。枝は女将に渡せばいい。こいつは任務だ。が、やろうが、やらまいがお前らの自由。無理強いはしねーし、自信がなけりゃやらなくていい。僕らには難しすぎて無理でした、とでも言ってろよ。じゃあな、これで新兵説明会は終わりだ。解散、解散ー」
一方的に言うだけ言って、ペール新兵担当官殿は退席していった。
後に残された面子を見回してみる。
「……最低ね。これだから傭兵風情は……」
心底うんざりしてそうな黒ローブのレア・メタルワンド。
「? ? ?」
何も分かってなさそうなネツワァル国がウドの大木ガァズ。
「貴方が我らのリーダーか。よろしくお願いします」
恭しく敬礼を一つかましてくれるホルデイン騎士のジャンヌ・ロメ。
「いや、よろしく言われても俺は困るわけだが……」
まぁその、なんだ。うん、いいや、適当にいこう。てきとーに。
……どうしろってんだ?
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