About "AT通信"
- FEZ内であまり役に立たない情報を、自分達が楽しみながら発信していく「組織」、またはその「情報媒体」です。
POWER PUSH EVENT
PICK UP
NOVEL
「Ring of the Kingdom」---著[Anly]---画[ちるね&みかん]---
第二項
ルームの管理兵、ケイディスとかいった兵士に一声かけ、外に出てきた。
あたりはすでに暗く、見上げた空は夜の彩り。満天の星と、微かに月が陰る朧月。
や、いい夜だ。
こんな夜は、狩りをするでもなく、夜釣りに興じるでもなく、ぼーっと寝て過ごすでもなく、ふらふらと散歩するに限るってなもんだ。
アズルウッドの森から吹き抜けてくる夜風を肌に感じ、ぐいーっと背筋を伸ばして身体を矯める。
ボキボキと骨の軋む音を身に聞くあたり、どうやら疲労したようだ。まぁ、面倒なことにはなったけどさ。
首だけを回して後ろを見る。
遠近を無視して視野に入るデカブツは置いといて、三歩ほど後ろについて来る青い服の騎士ジャンヌと目が合った。
「?」
どうかしましたか、的な小首を傾げて問う仕草。つられて流れた金の髪が、月に照らされる。
何というか流れ星? みたいなことを思ったあたり、我ながらどうでもいいな。
「近けーって」
後ろについて来るのは構わないが、三歩は近すぎるだろ。
手を伸ばせば届く距離、剣を抜けば一撃で首が刎ねるぜ。
まさかいきなり抜かれるとは思わないが、どうも性に合わないというか落ち着かないというか。
とにかく は な れ ろ ☆ と、声に出すまでもなく目で促す。さぁ通じろ。
「この距離が一番いいのです」
「はい?」
さて、通じていそうで通じていないような気がするのは俺だけか。
「護衛には最適の位置かと思われます。どうぞ、お気になさらず」
ゴエイってなんだ。
「いや、気になるし。せめてもうちょい下がるか、いっそ前に出てくれないか? なんかこう、むずむずして落ち着かん」
青い服に合わせて帯びている小剣とか、鞘に納めていても気になるぜ。
一見、軽装で整えていると見せかけておいて、要所要所でカチャカチャ聞こえるので余計にな。
とにかく、手甲みたいな脚甲みたいな中途半端に紛らわしい防具はやめてくれと。
「では、しばしのご辛抱を。拠点まで着きませれば、離れます故に」
キョテンってなんだ。
何というか、物々しいというか、仰々しいというか、うん、めんどくせ。騎士ってめんどくせ。
堅苦しいんだよなぁ。物言いとか、雰囲気とか、色々と。もっとテキトーでいいじゃないか。
「あっそぅ。好きにしれ……」
押し問答の末、言い負けることが目に見えたので放置する。この手の堅物は相手にしたくねー。
「あとデカブツ。ガァズだっけ? うん、そう、オメーオメー」
「??」
面倒だったがくるりと身を回し、後ろに歩きながら巨漢を指差す。ってか指をさして確認させなきゃ気づかないってどうよ。
のん気に道端の草花を眺めていたのはどうでもいいが、呼び掛けに鈍いのは致命的だな。
「あ、えと、な、なん、なん、か?」
「何か、じゃないって。ふらふらしすぎ。酔ってんの?」
でけぇ図体してるだけあって、頭の振れ方が目に余る。
一歩ごとに右によりー、左によりー、むしろ身体の軸ごと左右にびろんびろんしてんじゃなかろうか。
他に歩いてるやつがいたら邪魔でしょうがないぞ、ほんと。
「あ、あ、すまん、です。あの、オラ、ずっと、ずっと、山にいました、もんで。岩、とか、崖、とか、のぼり、くだり、その、えと、す、すまん、です」
めんどくせーその二。
急勾配な斜面に慣れすぎて、平地をうまく歩けないとか言いたいのかも知れないが、どこまで俺に察せというのかこいつは。
つかよく分かったな俺。さすがだな?
「ガァズ。平地を歩く時は、正中線をぶらさないよう心がければいいのです。目の中心、鼻筋、喉、腹、股、といった具合に線をを真っ直ぐ意識し、左右の足の内側を踏み込むようにすれば安定しますよ」
歩き方の講習なんて初めて聞いた。
いま、ありのまま起こっている光景を口にしよう。
ジャンヌの背の倍以上はありそうな巨体のガァズが身を屈め、足元のジャンヌの話に耳というか身体を傾けている。
傍目に見れば、巨大なモンスターが華奢な女に覆いかぶさろうとしているようにしか見えないぜ。
「馬鹿みたい……」
うん俺もそう思ってた所。
こんなので気が合うのもどうかと思うが、ジャンヌとガァズの遥か後ろ、俺から見ればけっこうな距離を空けてついてくるレアが零していた。
こう見えて俺は目と耳がいいんだぜ? 別に威張るようなもんじゃないけどな。
森で暮らしていたせいか、細かい音の差異まで聞き分けることが出来る、便利な耳をしているのだ。風の通り抜けなのか獣の音なのか、などといったことの聞き分けは、森で生きる最低限の能力、だとかなんとか。いまいち実感ないけどさ。
レアと目が合った。
黒のフードに隠してはいるが、視線は直で俺の方を向いている。まじまじと見すぎたか。
さすがに無遠慮で見てれば気づかれるよな。もっとも、隠すつもりなんか毛頭なかったからどうでもいいが。
ジャンヌとガァズの会話を挟み歩き、互いに無言。
二人の話し声は聞こえているはずだが、意中にないので聞き流されていく。レアも同じだろうか。
険しさを伴ったその目線から察することができるのは、何やら敵意丸出しということだろう。あれ、俺なにか悪いことしたっけ?
ルームで会った時のことや、ペールと話してたあたりのことを思い出してみる。
これといって問題なし。思い当たるフシもない。心当たりのないことで気分を害していた、とかだったら俺はしらんぞ。
「――ジャンヌ。あなた、リーダーやってくれない?」
何を言うかと思えば。うん俺もそう思う。
自分に声がかけられたと気づいたジャンヌは、ガァズへの講習を一時中断すると立ち止まり、レアが寄ってくるのを待っていた。
「いえ、私は補佐に就きます。我らのリーダーは、アーチャー殿です」
「無理」
すごいな、即答で否定されたぜ。俺もほんとにそう思う。
「無理ではありません。ペール教官殿が指名なされた以上、任命権は我らにあらず。リーダーはアーチャー殿です」
「だからムリ。なに、ジャンヌ。あなた、あんなヤツの話を真に受けるの? だとしたら拍子抜けなんだけど」
女同士は怖いね。普通のやり取りのはずなのに、俺には何かのせめぎ合いに見えちゃうよ。
ほら、板ばさみになりかけたガァズが震え上がりかけてるよ。ああ、あいつ挙動不審さは素だっけか。
「上官への批難は、すべきではありませんよ。後ろ盾が確かならば、なお更のこと」
「……はン。なるほど。小賢しいわね。でもいいわ。それなりに知恵が回るようだし、なお更リーダーやって欲しいんだけど。何も表立ってやらなくてもいいし。実権を握って、裏からソイツをこき使ってやってよ」
俺いま、すごいフツーにけなされてない?
「レア。アーチャー殿の、何がそこまで不満なのですか?」
直球ですよ。
回りくどいことが出来ないのかしないのか分からないが、真っ直ぐすぎる。こりゃぁ、一つあるかなぁ。
「全部」
「え、俺そこまで否定されてんの?」
会って間もないのに全否定されるなんて、俺ってすごいやつだな。我ながら尊敬しちまうぜ。
「"名前が無い"ヤツなんて、それだけで不信だわ。私、最低限の信用すらできない人間の言うことなんか、聞きたくない」
「それだけですか?」
おれすげー、ふつーに無視されちゃったよ。いや、気にしないけどさ。
「"名前が無い"ってことが、どれだけ異常なのか解らないの? 偽名とか黙秘とかじゃないよ? いいこと、ジャンヌ。ソイツは、本当に、名前が、無いのよ」
「何故、そんなことが?」
「私には解るのよ、サー・ジャンヌ・ロメ。騎士サマには分からないかもしれないけど」
ちょいちょいケンカ吹っかけてそうな物言いだが、まさかマジで喧嘩しないよな。頼むぞジャンヌ、ここは大人な対応でだな。
「そんなことが根拠足りえると。客観的に判断できないものは、まず疑ってかかるべきでしょう。レア、あなたが偽証によってアーチャー殿を陥れようとしていないと、この剣に誓って言えますか?」
わージャンヌさん大人だー。
さりげなく腰元に帯びた小剣の柄に手を添えてる所なんて、本気すぎて惚れ惚れするぜ。
「……やる気?」
「返答次第では」
うんここ街中、じゃない森の区か。
いや、だからといって戦闘許可区域でないことは確か。下手に騒ぎを起こせば衛兵がすっ飛んでくるんじゃね?
初日でいきなり問題起こしてぶち込まれるとかナシだぞ。傭兵部隊の納屋はくせーらしーぞー。縁の無いことを切に願う。
「……はン。お人よしめ。いいわ、好きにしなさい。私はソイツが嫌いだけど、何も、あなたとまで敵対するつもりはないわ」
「それはどうも。私としても、魔術師と事を構える事態は、極力避けたいところですので」
よし、交戦回避。いつまた再燃するか予断を許さない感じではあるが、気にしないでいこう。
火種のあれこれを気にしたってムダだしな、うん。なるようになるし、どうしようもなくぶつかることもあるさ。俺が巻き込まれなければ何でもいいや。
と。
「あ、あ、あ、あの、あの、その、その、、あ、う、」
あからさまに呂律が回ってないドモリをかましながら、ガァズの巨体がずいっと女二人の間に割り込んだ。うわこえぇ。何を血迷って女の修羅場に割り込むよ、あのバカ。余計ことがこじれたらどーすんだ。
「け、けけ、けん、ケンカ、は、あ、あの、よ、よく、ない、す」
うんうん、ケンカはよくないよな。何せ俺たちは形の上ではチームなんだし、内輪もめとかナシだぜ。チーム解散してからなら好きにやってくれていいけどよ。
しかしな、ガァズ。悲しいことに、間が抜けてるんだ。
不穏な空気が収まり掛けた所で割り込んでどうする。どうせならケンカが始まった直後に割り込んで、身を挺して止めるくらいの見せ場は欲しかったよな。行動起こした点は認めるけどさ。
「……ウザ」
ぼそりと吐き捨て、レアが身を引いた。
そのまま数歩、十数歩、おいおいどこまで下がるんだお前は、と言い掛けたあたりまですいすい下がる。
そこまでうざったかったのか。どうやら嫌われているのは俺だけじゃないらしい。よかったよかった、うれしくないぜ。
「大丈夫ですよ、ガァズ。もう済みました。ご心配には及びませんよ」
あからさまな嫌悪を見せたレアとは対照的に、ジャンヌはにこりと面を崩し、微笑を浮かべてガァズをなだめた。
見えた。俺には見えた。
これは主従関係が出来上がる。上下関係かもしれないが、チーム内での関係構図がありありと浮かんでくるぜ。
トップが女二人、ボトムに男二人。
………
……
あれ、俺たち底辺じゃね?
「ノベル-AT通信-」作者と作品一覧
- 作者
- 作風
- 作品
※文章を閲覧される場合は、サムネイル画像をクリックして下さい。