About "AT通信"
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「Ring of the Kingdom」---著[Anly]---画[ちるね&みかん]---
第三項
首都アズルウッド。
エイケルナル大陸の南西に浮かぶ、離れ小島に構えられた小さな街。
歴史は古く、隣国ゲブランドの支配下にあった時分より遥か以前は、人とエルフの共存が模索されていたらしい。
元より生きる時間の異なる種族であったため、基本は不干渉、有事の際のみの協力で落ち着いていたとか。
人間とエルフ。色々あったんだろうな。
ともあれ、ここ何年ってか数十年単位で人とエルフの共存は見られていなかったらしいので、異種共存はダメだったんだろうなと。
ほんと、我らが聖王女さまは変わり者だな。
よくもまぁ敵味方いりまじる俗世間に飛び込んできたもんだよ、ホント。
なんてことを、つらつら思っているにはワケがあるだなこれが。
「カセドリア連合諸王国に栄光あれ! 我ら連合正規軍では志願兵を募っている! 我こそはと名乗り出られよ! そなたらの豪腕英知と勇ましき猛りを祖国に捧げられたまえ!!」
「正規軍なんぞクソ食らえ! 新参者は我らがウィンビーン将軍率いる傭兵団に来なさい! うちはいいぞぉー! 戦争のイロハってやつだけじゃなく、俗世間のタノシミ方をとことん味わわせてやるぜ!」
「薄汚い傭兵風情が何を吠える! 我らは街の規律を守り! 森の治安を護り! 人々の安寧と大陸全土の平安を切に願っている!」
「はっ! かってに願ってろよ正規兵! 我ら傭兵は戦争が食い扶持! 戦争こそが生きる糧! 戦争して戦争して戦争しまくるのが傭兵だ! 治安規律なんざイヌに食わせちまえ!」
「規則の一つもろくに守れんロクデナシ共がー!」
「やんのかオラァ!!」
あらま、殴り合いに発展。
なんというか、お前ら元気ありますねとしか。
街中、しかも夜のいい時間に力いっぱい叫んでいるのは滑稽だぜ。
正規軍と傭兵団の関係は良くないと聞いていたが、実はこいつらデキてんじゃね? と思うほどまぁ、なんというか仲いいよな。
喧嘩するほど仲がいい、とは誰がいったか知らないけどさ。マジで仲悪かったら、こんな生暖かい目で見守れるようなケンカにゃならんだろうし。
周りの野次馬を見ても、またやってるよ、程度の空気なので間違いないだろう。
きょろきょろと周りの人だかりに目を向けてみる。
夜も半ばだというのに、やたら武装完了した野次馬でごった返しているのは何でだろうな。
数名の武装集団は、いかにも今し方戦争終えてきましたよ、的な殺気をまとっているし。かと思えば、意気揚々と出陣前の打ち合わせをしているらしき黒装束の怪しい集団がいたり、明らかにくつろいでますよと言わんばかりの軽装集団もいる。
うん、まぁ人多すぎだな。
中でもひと際、目を引かれたのは壁沿いに並んだ数名の戦士集団。
見るからに重厚そうな甲冑を着けたまま、ひたすら一心不乱になんだ、屈伸運動を繰り返している。怪しすぎだ。
「……なぁ、ジャンヌ。あれ、なんだろな?」
森の区からずっと三歩後ろをついてくる護衛騎士サマに聞いてみた。
「あれはスクワット、と呼ばれる鍛錬技法ですね。あえて甲冑を着込んだままとは、侮れません」
ジャンヌいわく、足腰を鍛えるための基礎的鍛錬なんちゃらだとか。わざと重い鎧を着けたままなのは、その方がより大きな鍛錬になるとか、ならないとか。
俺から見たら、足腰を鍛える以前にヒザぶっ壊しそうなのは気のせいだろう。
「ほー。そいつは結構なことだけど、何故にここで。場違いっていうかすんごい浮いてね?」
正規兵と傭兵たちの取っ組み合いに盛り上がる野次馬たちの中で、スクワットに勤しむ連中だけが何か違って見える。
なんだろう、ただの屈伸運動だけのはずなのに、ムダにかっこよく見えてしまう。
「見た限り、彼らは真剣そのもの、ですね。あれほど鍛錬に身が入ると、さぞかし強靭な戦士となることでしょう。良いことです」
「いや、まぁ、そりゃそうだけど……」
鍛錬するならもうちょっと場所を選ぶというか、城の中とか森の外とかでいいんじゃないかと。何もこんな街のド真ん中、しかも現在進行形で湧き上がってるケンカ場の傍でやらなくても。とか思うのは無粋ってやつだろうかね。
「お? なんだ、アンタらご新規さんご一行?」
近くで野次を飛ばしていた、見た感じ傭兵寄りな男が話をふってきた。
「ま、そんな所で」
「おー! そいつぁめでてぇぜ兄弟! よく来てくれたな、この弱小国家に! 俺っちも雑兵でしかねぇけどよ、歓迎すっぜ!」
自分で言うな。ついでに弱小国家って。当たり前のように口には出さないけどさ。
「そいつはどーも。あ、俺、アーチャーね。よろしく」
先手を打って適当な自己紹介。特に馴れ合うつもりもないので、表面的なもので十分だろう。
「おう、よろしくなっ! 俺っちはエンハンス! ハンスとでも呼んでくれやっ、兄弟!」
うわぁテンションたけー。
吐息がわずかに酒臭い所をみるに、酒場で飲んだくれてた類だろうか。絡まれないよう距離を取っておかんとな。
「んじゃハンス。あれ、何やってんです?」
話題を件のスクワット連体に移すとする。
酔っ払いの気をそらすには、他の物事に目を向けさせてやればいいのさ。
「んん?? ……ああ、あれか。ロムールんとこの部隊だな。連中、ああやってしょっちゅうスクワットしてるぜ。なんでも、目標戦が近場になるよう、身を粉にして上に直訴してるとか、祈ってるとかいってたな。効果あんのか誰にもわっかんねーけど!」
ゲラゲラと。野卑にして明け透けな笑いを上げ、ハンスは豪快に破顔する。
なんだろう。俺、こういった下品なものに馴染めそうだ。傭兵最高だな。
「目標戦?」
「ああ、んとなー。週単位の日区切りで、上が攻め落とすとこを決めんのよ。昨日はキンカッシュだったかな? いや、シディット?…クローディア?…忘れた!」
これまた豪快に笑う哂う。酒の力はすげーやね。
「戦術目標、ですね。定期的に攻め落とし、その領土を守るために戦力を集結させる、といった形の国家戦略です」
さりげなく補足に入ってくれたのは言わずもがな。ジャンヌである。
「おっと、ねぇちゃんイケるクチだな! そう、まさしく俺っちもそう言おうとしてたところよっ!」
うそつけ。
「ハンス。次の目標と、更新期限はいつごろですか?」
「んーとなー、俺っちもいま店でたばっかでなぁー。後でその辺のマネージャーにでも聞いてくんろー」
げらげら哂うハンス。何がそこまで愉快なのか、酒はほんと恐ろしい。
見れば周りで騒いでる野次馬たちも赤ら顔で、どうにも酒気が漂ってるなと思ったら案の定。こいつら飲んでやがった。
「まー、なんだ。もうじき今週の目標も達成できそうだし、今夜はぱーっと騒ごうぜ! な、兄弟! おごっちゃるぜぇ!」
剛毅に振舞うハンスから、やや身を遠ざけてみんとす。
厚意はありがたいんだが、酔っぱの付き合いと秤にかけると、うんまぁなんだ。
ここは何事もなかったように別れるべきだと思うんだ。
「わりーな。ちょっくら宿屋の方に、えーと、なんていったっけ」
「静かの森、ですね」
「そそ、そこに行かなくちゃならないんだわ」
静かな、じゃなくて静かの森ってのも妙な気はするが。そういう店主の趣味だろうかね。
「あー、レッセンの姉御のとこね。俺っちも昔セワになったなー」
おっと来ました酔っぱの懐古癖。
ハンスには悪いが、昔語りは酒場の隅にでも吐いてもらうことにしよう。
「ま、そういうことで! またな!」
爽やかそうな笑顔をつくっておさらばするぜ。
角が立たないよう、あくまでも自然な流れに乗せてしまうのがコツだな。
「うぃー? おー、またなー兄弟ー!」
足早に背を向けた所にかけられたハンスの言葉。
兄弟。
道端で会っただけの他人に対し、いやに馴れ馴れしいとは思うが、まぁ。
どんな新参であっても仲間は仲間、といった傭兵気質が垣間見れた気がするので良しとしよう。
後ろに連れ歩く、三人の足音を耳にし、遠ざかる喧騒のにぎやかしを聞きつつふと思う。
――兄弟、ねぇ。
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