About "AT通信"
- FEZ内であまり役に立たない情報を、自分達が楽しみながら発信していく「組織」、またはその「情報媒体」です。
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「Ring of the Kingdom」---著[Anly]---画[ちるね&みかん]---
第五項
宿の中に通され、まずは何か用意しましょう、とのこと。
レッセンは奥の方に消えて行き、後に残されたのは俺含む四人のみ。気まずいといったらありはしない。
中をざっと見回してみるが、言うほどの何かがあるわけでもなく、いたって平凡。
木材を多めに使って組み上げられているらしい、程度か。木目半分、石目半分。石畳に囲まれた街中に比べればまぁ、まだ落ち着く方か。
「ほぅ…」
何かに感心した風なのは俺じゃない。
「なかなかのものですね。さすがは森の国、といった所ですか…いい仕事をしている」
何がさすがなのかは俺に聞くなよ?
どこか興味ありげな面持ちでジャンヌが内装を見て歩く。脚甲の足音が微妙にかちゃつくが、まぁ主もいないし放っておこう。
「どれ、基礎は、と…」
何を思ったか。ジャンヌは適当な一角に立ち止まるやいなや、おもむろに脚を中ほどまで上げ、
「――ハッ!」
呼気一閃。
鈍音が床板を踏み抜いた。
やりやがったー! 鉄と木、どっちが硬くてどっちか脆いかなんて、考えるまでもなく分かるよな?
しかも戦ごしらえ、荒っぽい用途を前提として作られた鉄の脚甲と、とりあえず普通に張られるだけの床板の強度なんざ比べるまでもなく。
主が戻ってくる前に逃げ出そうかしら。
「…ほほぅ」
のん気な声で感心しきりなジャンヌさん。騎士ってのはよく分からん。
「何がほほぅ、なのか聞いてやった方がいいのか?」
俺としては修理や弁償といった面倒に巻き込まれる前におさらばしたい、と思ったけども。そもそもペールの計らいでここに来てる以上、どのみちバレるわけでだな。面倒なことは基本ジャンヌに押し付けようと思うんだ。
「ああ、すいません。ついクセで」
どんなクセだ。悪癖にも程がある。
とんだ奇人だなと内心で評価をしつつ、その辺にあったイスに腰かけてきとーに。
「見てください、足元」
「んぁ?」
ぼけーっと天井のシミでも数えておこうかと思った矢先、掛けられた言葉に従い視線を移す。
どうせ無残な姿になった床板があるだけだろうに……なかったけどさ。
「ん、ん?」
我ながら間抜けな声を出したと思う。ついでにマヌケな面もしていたとも。
「ご覧の通りです。軽く痛みましたが、それだけですね」
ジャンヌの足元、鉄脚甲に踏み付けられた床板に目を奪われた。
ばきばきに折れているわけでもなく、べきべきと壊れていたのでもなく、ぽっかりと穴が開いていたわけでもなく。
辺り一面の木目と同じくし、何ら変わらぬ平凡な床として健在していた。
「はぁ…なんとも、頑丈なこったな?」
そんな事しか感想もでないわけでだな。床面の強度やら衝撃吸収についてとか、ご大層なことを俺に期待されても困るんだぜ。
「はい。とてもしなやかに組まれてます。恐らくは陽の木と陰の木、その両方を用い、さらには特殊な加工技術と組み方があるのでしょうね」
うんうん、と頻りに頷いているジャンヌさん。胸の前で腕を軽く組みながら、片手を口元に添えて何やら思案顔。どうでもいいよな。
「…やはり、ここはエルフ伝来の何かが…技能、技術、もしくは……これならば、あるいは…」
大まかに呟きは読めるがあえて触らない方向で。ほんと、どうでもいいしな。
――ベキリ。
背後、後ろの方で何やら不穏な音がしたような気がします。
「……う?」
う? じゃねーよ。
振り向きたくない、ああ本当に振り向きたくない。後ろを向いてそこで何が起こったとか、誰が何をどうしたとか、そんなこと考えたくもない。
なので俺は関わらないぜ?
「おーい、レアよ? いま、そこら辺で何かあった?」
おそらく後ろの方のどこかにいるであろう黒い魔術師に、あえて水を向けてやる。視線はガンとして正面、ジャンヌの方から外さないぜ。
「……さぁ? 自分で確かめてみたら?」
程なくして返ってきたのは面白みの欠片もないお言葉。どうせなら反応なしの方がまだマシだった気がするのは何故なんだぜ。
「そう言うなよ。どうせお前が近いんだろ? 遠いかも知れんけどさ。で、何かあった?」
「………ふん」
あ、ここで無視するとか。
言外に読み取った空気からは、自分で見ろ、とでも言いたいのかね。俺もそう思うよ。
「…あー、…ジャンヌさん? よろしく」
だがあえて俺は振り向かない。
後ろの方でガァズの声がしたとか、その声がする前に何やらべきべきと壊れる音が床下の方から聞こえたとか、レアの素っ気無い返事はまぁいいとして。
とりあえず、目の前で苦笑を一つ浮かべていらっしゃる騎士様の様子を見れば分かるよな。
「はは、仕方ありませんね。委細、承知です。手間事は、極力こちらで受け持ちましょう」
話の分かる騎士様でよかったな、俺。
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